オーナー
山崎 孝則
takanori yamazaki
仲間との間で
大事にしていることは信頼関係
世の中にある多くの仕事の中で、この仕事を選んだ理由はなんですか?
子供の頃に行っていた床屋さんのおじさんが、話も上手で楽しかったというのもあるし…。みんな髪型がキマるとイキイキするじゃないですか。学校でも、遊んでても。人が元気になる仕事って単純に「いいな」って思ったんですよね。それに当時の自分にはそんなに選択肢は無くて、自分の視界に入る仕事の中で、一番「理容師」という仕事がすごく魅力的に感じたんです。
このお仕事の一番面白いところを教えてください。山崎さんにとっての魅力。
お客さんに目の前で満足していただけること。対面で1時間から3時間、一緒の時間を共有して、結果、満足して帰っていただくのは、こっちもやりがいがあるし、楽しさを実感できるところです。
山崎さんはその長い時間、お客さんと、どういうお話をするんですか。
基本、当たり障りのない会話の方がいいですよね。うちの店は最初にカウンセリングシートを書いていただいて、話をしたいか、したくないかも伺っているんです。「話をしたくない」という方も結構いるんですよね。3〜4割くらい。感覚がいい美容師だと、話をしてもいいか、しない方いいかを瞬時に感じ取るけど、その感覚が分からない美容師もいるので最初からカウンセリングシートにそういう項目を作っておけば、お互いに嫌な思いをしないですみますからね。
山崎さんはこのお店を20年以上も経営しています。独立前は下積み時代があったと思うのですが、今までにどんなご苦労がありましたか?勤めていた時と独立してからと。大変さは違うと思いますが。
数えたらいっぱいありますよ。最初は理容師で、職場は床屋だったんです。専門学校の理容科に入って、床屋さんで4年半働いて理容師免許を取って、管理理容師っていうのも取って、美容に移ったのはその後なんですけど…。 僕らの時代は、半分くらいは住みこみ、半分は通いという時代。休みの月曜日は講習会などでつぶれたりする。お給料も安いし、仕事以外に家のこともしなければならなかったり、上の人や先輩が言ったことは絶対で。まあ、それはそれで大事で。今、思えばすごくよかったんですけどね。
何年前ですか?20年前?
30年前。その頃は毎日「辞めたい、辞めたい」、「いつ辞めようかな」って、ずっと思っていました。
なぜ辞めなかったんですか?
自分で「やる」と決めて入った世界だから、簡単には辞めたくなかった。自分で「やる」と言ったのに、すぐ辞めちゃったら信用が無駄になるかなって…。今、思えばよく頑張ってたな、と思います。ストレスですごく痩せましたよ。体重43キロくらいになりましたよ。ガリガリに。
そんな状況でもこの世界に入って、多少はいいことというか、頑張れる何かはあったんじゃないですか?
その頃の頑張れる糧っていうのは、今の奥さんかもしれない。それが支えだったかもしれない。奥さんも美容室で働いていたんですけど、向こうも大変ななりにがんばっていたから。「あっちもがんばってるんだし、僕もがんばろう」と。
素敵な関係ですね。山崎さんが理容から美容に転向したきっかは何ですか?
床屋はスタイルがだいたい決まっているんですよ。当時は。今は坊主でもソフトモヒカンみたいなおしゃれなデザインが色々あるけど、そういうのはなかった。先生が言うことは絶対で、刈り上げは、スポーツ刈りか、角刈のみ。それ以外は許されない(笑)。
ところがある日、来店した若い子に「こういうのがしたい」ってちょっとオシャレなスタイルをリクエストされたので、「いいよ、やってみよう」って言って、当時その店ではタブーとされていたような髪にしてあげたんですね。そしたら、その店の店長に「だめだ」って言われて、やり直しされて、全部ふつうに切っちゃったんですよ。その子は「いいね!かっこいい」って言ってくれていたのに…。それ以来もう来なかった。
そんなことがあったりして「なんか違うな」と思って、美容に移ったんです。
なるほど。次に美容室に入って、実際はどうでしたか?
美容室に入ってもすごく大変でした。また一から。シャンプーだって違うし。やることなすこと全て違う。ロットの巻き方とかも自分がやっていたのとぜんぜん違う。理容で4年半やって、美容室に移って、自分の年下に使われるんですよね。その子たちの方が仕事ができるから。それはそれは屈辱的。自分も若かったですしね。最初は「失敗したな」って思いました(笑)。でもまたそこで「自分が移る」って言って移ったんだから、辞めるわけにはいかないと思って…。がむしゃらに頑張って先輩も追い越して、5年くらいで店長になって、その後に独立しました。
なるほど、それでは次は、独立して分かるオーナーとしてのご苦労などをおききしたいですね。
いろいろありますが人を育てるのが一番大変です。年齢の差が大きくなればなるほど難しいですね。年齢が近いと感覚的なものも近いので、話していると伝わるんですが、年齢が離れてくると説明しても本人は「分かった」とは言うものの、実は全然分かっていないことが多くて…。しかも今は、言われたことを素直に受けとめるのが苦手な子が多いように感じます。
美容師としてのやりがい、喜びはなんでしょうか?
やっぱりいろんなお客様とのつながりですよね。やっぱりそこが一番です。長く通って頂いていているお客さんは独立する前の店からのお付き合いです。
オープンの前からずっと通い続けてきてくれる。その秘訣ってなんですか?
秘訣ではないですが、やっぱり誠意をもって、その人に合った接客をしつつ、もちろん髪型も希望通りで尚且つ上手く似合っている、というところだと思うんですね。相性もあります。
尊敬する先輩や、同じ業界でなくても、実際に会ったことがなくてもいいんですが、人に言われて、心に刻まれている言葉ってありますか?
尊敬するっ人って、特にいないんですよ。でも自分に無いものを持っている人は、リスペクトするというか、尊敬します。特定な人ではなく、いろんなところで「この人はすごいな」って思うんです。例えば体力作りのためにここ数年、スポーツジムに通っているんですが、僕なんかよりずっと年上の人が、めちゃくちゃ頑張ってたりするんですよ。話を聞いてみると、同じように「衰えを感じたからやってる」とか、目的は人それぞれなんですけど、「その年齢なのにそんなにやるんだ」っていう人が、男性女性関係なくいて…。そういう人はすごいなって思います。
だから自分で真似できるところは、仕事に関わらず、真似しようかなって思いますね。
その感覚は若々しいですよね。好奇心というか。ふつうは「自分はちょっと…」ってなるじゃないですか。すばらしいなと思います。座右の銘みたいなものは無いんですか?
「人事を尽くして天命を待つ」ですかね。今の健康の話もそうですけど、やることをやっていれば、そんなにジタバタしないで済む。仕事でもやれることをやっておけば、結果も見えてくる。
やっぱり20年続く美容室は違いますね。仲間との間で、大事していることはなんですか?
信頼関係です。
うちはスタッフ4人なんですけど、上の二人は主婦で子供を育てながら、けっこう長く勤めてくれています。一番長いスタッフが14年くらい。次が11年くらい。下の子は女の子が2年で。男の子が最近入社して半年くらいなんですが、信頼関係っていうのは、相手を理解して、相手に任せる。仕事だったり、人間的にも相手を理解して、知るというのが大事だなって、最近この年齢になって思うんですよね。若くても自分に無いもの、自分が気づかないことを気づいたりするんですよ。「ああ、そうか。あそこはそう思うんだ。なるほどね。それもアリか」っていうのがあるから、相手をよく知るっていうのは大事。
もし信頼が無かったら頭から否定しちゃいますよね。それってよくないんだなって。もちろん全てではないですけど。
絶対に変えたくないポリシーは何ですか?
「笑顔と誠意」。特に仕事において大切だと思っています。誠意を持って対応すれば、クレームだってそんなに大ごとにはならない。それに初めて来るお客様って基本緊張して来るわけじゃないですか、でも笑顔で接してもらえればリラックスできますよね。
若い人たちにどんなふうにこの仕事を伝えていきたいですか?
お客様に寄り添って仕事をしてもらえればなと思います。仕事なんて、意外に派手に見えて、地味なわけですよ。どんな仕事も派手に見えれば見えるほど、意外に地味な仕事も多かったりしますし。だから表面ばっかり見ずに、しっかり仕事をしてもらえればいいかなと思います。
SILVAは、最近はフォトコンとかカットコンテストとかは出場されてますか?
前は出てましたが最近はやってないですね。コンテストってあれはあれでいいと思います。それを目標に頑張るわけじゃないですか。練習したり、考えたり、「どうしたらいいんだろう」って練りますよね。それがいいんですよね。自分の引き出しも増えてくるし。必ずしもそれありきでなくてもいいと思うんですけど、マイナスはないと思います。ヤル気がある人にはアドバイスしますよ。あんまり自分の考えを押し付けたりはしません。本人がどう思っているか、どうしたいかが大事だと思うので。
山崎さんは人からどんなふうに見られたいですか。
どんなふうに見られたいとかは、あんまりないですね。こう見られたいというのはあんまりなくて…。
私の印象は昔から「穏やかな方だな」って思っていました。「穏やかで、落ち着いていて、感情を出す方ではないな」と。でもその一方で、新しい知識を吸収するために積極的に行動したり…。
自分で小さいお店をやっていると、何もかも自分でやらなければならない。ふつうの会社は社員が多ければ、社長には社長業があって、経理は経理、事務なら事務って、役割りがちゃんとしているじゃないですか。でもこういう小さい会社は何でも自分。だからやりたいことは色々あっても、手が回らなかったり、自分で考えが及ばない。知らないこともいっぱい…。本当はいろんな人とコラボをしたり、いろんな話もしたい、吸収したいというのもあるけど、なかなかできない現状もあって…。もどかしいですね。
夢は「現場を離れて動くこと」なんですけど、まあ、もうちょっとですかね~。
山崎さんはどんな人に怒りを感じますか?許せないですか。
あんまり怒りっていうのはないですけど、ルーズな人はちょっと…。
あとはちょっとウソをついたり、あとは知らないのに知ったかぶりする人もいるじゃないですか。そういうタイプはちょっと苦手です。
山崎さんの目標、夢をあらためてお話し下さい
美容に限らず、いろんなことに挑戦したいですね。飲食店とかもやりたいし。美容室も本当はもう1店舗ぐらいやりたいんですよね。
SILVAのシステム的なこともお聞かせ下さい。練習や残業などはどのような感じになっているんですか?
練習は営業が終わってからする場合もありますし、うちの子は朝早く来てやってますね。自主練習なので、特に細かな契約は無く、残業代が出るわけではありません。自分は成長意欲のある子にはちゃんと定期的に教えてあげたいと思っています。
SILVAに入ると、従業員さんにとっては、どんな未来が待っていますか。
派手ではないですけど、長く続けることによって、実力はしっかり付けてあげられる自信はあります。男性でも女性でも、真面目に誠実にやって頂ければ。
経営ノウハウも教えられますよね。当たり前のように山崎さんがやっている一つ一つが20年以上経営が続くノウハウだと思うので。「最終的には独立支援もできます」みたいな。
そうですね。独立したい子はしてもらっていい。喜んで独立支援します。
でも独立するぐらい実力のあるスタイリストさんが抜けると経営的には一瞬厳しくなりますよね
それはどこも同じだと思っています。それでいいと思っています。それぐらいは美容室の経営者として腹くくってないとね(笑)